無類の読書家 中島佑気ジョセフ
無類の読書家 中島佑気ジョセフ
勝見 博(昭50法律)
9月下旬に開催された愛知・名古屋大会の陸上競技で注目された種目の一つは、東洋大OBの中島佑気ジョセフ選手(富士通に所属)が出場した男子400メートルでしょう。金メダルが期待されていましたが、今回は体調不良のため予選が1組2位、決勝は3位と悔しい結果となりました。
しかし、アジア大会の陸上を締めくくる1600メートルリレーでは、アンカーとして1位でバトンを受け取りそのまま先頭を譲らずにフィニッシュし、日本チームとして金メダルを獲得しました。
9月の日経BOOKPLUSに「走る文学青年・中島佑気ジョセフの読書遍歴」として3回に亘り中島選手が紹介されました。
読書が習慣になったきっかけは、親戚の作家から譲り受けた本が家にずらりと並んでいたこと。親が厳しくてスマホをあまり触らせてもらえず、ゲームもしない環境で育ったため、本棚の本を開いてみたのが読書経験の始まり。小学生時代は国語辞典で分からない言葉を調べながら、三島由紀夫の小説や歴史物などを読んでいて、漫画はほとんど読まなかったそうです。
中学生時代に『ウサイン・ボルト自伝』を読み、走りが速くなれば自分の前に大きな世界が広がることを知り、本格的に陸上の道に進むことに。高校生時代は授業と陸上の練習であまり読書の時間が取れなかったが、自己啓発本や栄養や睡眠に関する健康書を多く読み、アスリートに必要な知識を取り入れていた。
文学や哲学書にハマったのは大学に入ってからで、教授が紹介してくれた教養書から読み始め、そこから経済や哲学、文学へと興味が広がっていった。大学1年目はコロナ禍と重なり陸上の練習も出来ず、授業もオンライン中心で、この時期に多くの本を読んだ。書店にはよく行き、1週間に2冊くらい読む。陸上の合宿にも本を持って行くとのこと。
陸上の400メートル走は40数秒で終わってしまう。その一瞬に懸けるために、どこで仕掛けるかなど技術的・戦略的なイメージを組み立てるが、これを鮮明に描けたときは本番もうまくいく。2025年9月の東京世界陸上では、これまで積み重ねてきたものや会場の雰囲気を、文学作品の情景描写のように鮮明に想像して、頭の中でシミュレーションした。中島選手は予選で44秒44の日本新記録をマークし、準決勝を着順で勝ち上がり、決勝では6位に入賞した。この「頭の中で情景を鮮明に描く力」は文学を読むことで養われたと語っています。
中島選手は、ファッション雑誌のSPUR(シュプール)4月号「中島佑気ジョセフ疾走の哲学」でも取材を受けていますが、そこで語っている愛読書は、ドストエフスキー『地下室の手記』、シェイクスピアの戯曲、ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』、鈴木大拙の禅についての本、國分功一郎『目的への抵抗』、ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』など中々のものです。
