【Part 3】一歩先を走るなら自分の価値を最大限に
第2話を振り返って
第1話で、新たな世界へと進む決心をし、まず選んだのは、大手商社系列の海外チャンネル配給会社。次に、運命的な出会いを感じながら世界最大のソフトウェアベンダー企業へ。ここで国内のみならずアジアパシフィック全体の統括、さらに広域な地域の統括業務を担当。その後、グローバル組織の再編が行われた際、この会社を退社し、新たなチャレンジを選択。深圳(シンセン)にあるアウトソーシング請負会社の日本法人立ち上げに取り組みます。その後、予期せぬ出来事が起こったのです。そしていよいよ最終回。これまでの経験が活かされ、現職に繋がっていきます。経験をもとに熱いメッセージも執筆いただいていますので、最後までお楽しみください。
別のコンサル会社の存在が・・・
四半期に一度、業務レビューの為、北京、シンガポール、シドニーなどに出張し、毎月自分のオフィスがある深圳(シンセン)に行く、という生活を2年ほど送っていた時に予期せぬ出来事が起こりました。ある日、競合関係にあった国内でも有名な大手のコンサルティング会社にグローバル事業全体が買収されたのです。
自分の意思からではない転職は初めてで、条件も良かったのですが、新しい役割となってスタートアップのような面白さがなくなりました。それでも、さまざまな新しいプロジェクトに携わり、仕事としては充実していたものの、この時期はさまざまな仕事のオファーが舞い込んできて、少しずつそれらに注意を向けるようになり、今、自分が本当にやりたいことは何なのかを考え始めました。
そんな時、BtoB(注7)分野で世界一のソフトウェア会社であるドイツの会社から仕事のオファーが舞い込んできました。この企業は数年前に調達・購買ソリューションの企業を買収し、その日本展開の拡大の一翼を担う役割を期待されました。
良い転職を考える際には、次の3つの要素が重要だと思います。
(1)自分がその役割で明確な価値を提供できること(バリュー)
(2)自分がその役割に情熱を注げること(エンスージアズム)
(3)その役割が自分の視座を高めるものであること(エンハンスメント)
今回の転職は、まさにこれらの要素が重なり合う絶好の機会でした。最初はどうすべきか悩みましたが、熟考の末、上記の3つの要素が重なると確信し、条件も合意し、転職を決断しました。
仕事内容は非常にダイナミックでした。多くの日本企業は、大手企業も含めて、正しい間接材調達・購買の方法やコンセプトについて理解不足でした。そのため、バリュー・エンジニアリング部門のディレクターとして、このコンセプトを形式化し、数値化して啓蒙する役割を担いました。毎日、経営陣や責任者と会い、何をすべきか、どれだけ経営に影響を与えるかを伝え続けました。
世の中というのは今やっていることを否定しようとする人は少数です。私の本質的な役割はそういう現状を打破することですが、否定から入るとほとんどの人は耳をふさぐ結果になります。
大事なのは、その業務が重要で、やり方によっては結果を出し、経営に貢献できることを、論理的に数値とともに示すことです。ただし、これを実行すると自分の仕事が増えると嫌がる人たちも少なからずいます。
クラウドソリューションを効果的に活用するためには、業務をソリューションに合わせて調整する必要があります。しかし、多くの企業はクラウド化しながらも、現状のプロセス(As Isプロセス)を変えずに維持しようとする傾向があります。
これがクラウド導入における最も一般的な失敗例なのですが、多くの企業が自社固有のプロセスを保持し、逆にシステムをカスタマイズして他の機能を追加して固有プロセスに固執することに驚きます。日本の企業の効率化が進まない原因は、単にIT化が進んでいないことだけでなく、IT化を進めてもやり方が間違っていることにも起因しています。
今回の会社では本当にやりたいことに取り組む機会を与えてもらい、自分の価値を最大限に発揮しました。顧客訪問だけでなく、さまざまなイベントで登壇したり、社内外のコンサルタントにトレーニングを提供したり、CFO協会などでブログを執筆したり、DX関連の書籍を共同で執筆したりするなど、さまざまなことに携わり、結果、売り上げは急速に増加していきました。
(注7)「Business to Business」の略で、メーカーとサプライヤー、卸売業者と小売業者、元請け業者と下請け業者など、企業間で行われる取引のこと。
スポーツマネジメントのMBAでさらに腕を磨く
少し話がそれますが、実は2010年にスポーツマネジメントのMBAコースを受講し、その後、さまざまなスポーツのマネジメントに携わりました。当時在籍していた会社では、社長直下で特別に予算を割り当ててもらい、本業務以外でモータースポーツのデータ分析を行いました。
スポーツマネジメントを始めたきっかけはモータースポーツ改革をしたかったからです。そのため、日本中のサーキットを転戦しました。これが今、F1レーシングドライバーのデータ分析やスパーフォーミュラなどに関与するコンサルティング会社との関係につながっています。
仕事は、「二兎を追うものは一兎を得ず」というよりも、他の努力や結果と相乗効果を持っていることから、「二兎を追うものは二兎を得る」なんだと感じています。
その後、ビジネスの創出やパートナー支援など、いくつかの責務を担当しましたが、会社の方向性が変わり、自分の役割も変化していくと、自身の価値観、情熱、視点も変わってきます。
長い間、同じ部署で同じような仕事をしていると、ある意味でルーチンをこなす楽な状況が生まれ、それを「カンファタブルゾーン(Comfortable zone)」と言います。私にとってのカンファタブルゾーンは、仕事が増え、難しい仕事を成功に導き、チームで喜びを共有することです。
不謹慎かもしれませんが、同じことを繰り返しているうちに、新鮮さがなくなり、興味が失せてしまった時は、新たなステップへの節目なのだと思います。だから、7年振りに転職を考え、その結果、新たな挑戦として現在のジェンパクトに入社しました。
色々な経験が現職に
ジェンパクトは過去在籍していた企業で協業していたので、社名はよく知っていました。日本ではまだまだ知名度も低い企業ですが、多くのグローバル案件で競合他社を圧倒するほどの力を持っています。
これまでは主にオペレーション主体での業務をしており、上流工程のコンサルティングや国内での新規営業にはあまり力を入れていませんでした。しかし、今後はこれらの分野を強化し、国内外で同じようなサービスを提供することを目指して活動しています。
私が参画したのも新規ビジネス開拓が目的です。主に大企業の役員と協議し、効果を提示し、アセスメントを提案し、海外のオペレーションセンターを案内してショーケースを見せながら、彼らに私たちのアプローチをよく理解してもらうのです。ジェンパクトは業務の中で40%以上の効率化提案を行い実現します。
これは、裏を返せば、いかに日本の業務が日ごろから効率化できていないかを示しています。オフショアでコストを削減し、徹底的なプロセス改善をし、AIやRPAなどデジタル技術を活用して効率化を行うことができます。これをしっかり進めれば、実現可能です。ハイブリッドオペレーションによる改善で、日本の活力を取り戻すことができるのです。これが現在の私のモチベーションです。
鈴鹿F1の時にピットに入った時
人生を振り返ってみると・・・
振り返るとこれまでに様々な経験を積んできましたが、常にキャリアアップを追求し、より高度で幅広いスキルを活かせる、条件の良い仕事を選んできました。
時折、私は自分を雑草のようだと表現します。雑草は土がなくても、水がなくても、コンクリートにひびを入れながら、瓦の上からでも芽を出すものです。これまでにもレベルの高い大学の卒業生と肩を並べてきました。正直、現代の東洋はレベルが高くなっていますが、外資企業で働いていると、正直、日本の学校名など何の役にも立ちません。
ハーバード、スタンフォード、ケンブリッジなどの大学が一流とされていますが、そのような中で生き抜くためには、逆に、雑草のような人間のほうが自由にのびのび活躍できるかもしれません。
英語というハンディがあるかもしれませんが、中学で英語が得意でなかった私が言うのですから、自信を持ってください。思い立った時に始めれば上達します。実際、努力すれば必ず克服できます。
グローバルな世界では、日本の大学名や企業名は何の役にも立ちませんが、その中で周りを見回すと、時折、東洋の仲間を見かけ、嬉しくなります。
会社の会議でカリフォルニアに行ったときにチームでクルーズに行ったとき
人はそれぞれ異なりますし、意識は自分から変えていかないと変わらないので、無理に変えさせるつもりはありませんが、人と違う価値観を持ち、新しい興味を持つことによって、人は成長します。そして、出会いも重要です。できれば優れた上司に巡り合うこと。自分が高い視座を持っていると、そういう上司に巡り合うものです。
老若男女に関わらず、素晴らしい意見には耳を傾けるべきですし、学び続けることが大切です。私は過去に何人かの年下の上司に仕えましたが、年齢に関係なく、彼らから得ることができるアイデアや知識、経験は非常に価値がありました。私が年下から学ぶことがなかったら、今頃、私は役に立たない存在になっていたでしょう。
東洋大学を卒業し、様々な業界で活躍されている校友会の皆様、是非、横のつながりを作ってお互い高め合いましょう。そして、在校生やまだ若い卒業生の皆さん、皆さんには無限の力があると私は信じています。馬鹿にされたっていい、仲間はずれになってもいい、思い立ったら果敢に挑戦し、より高い目標に向かって前進してください。その先には、輝かしい未来が待っています。
1986年卒業
法学部経営法学科
小野寺 富保