母校支援

書道は国語か?書の世界はもっと広く奥深い

書道との出会い。恩師への感謝とともに

私が書道と出会ったのは、5歳の頃。西ヶ原*1の元の実家の近くに良い先生がいるというので、母に連れられて行ったのが、東洋大学元教授の本田春玲*2先生の教室でした。それから約60年余り、本田先生にご指導を仰ぎ、親以上にお世話になりました。

高校を卒業後、別の大学に入学していたのですが、一年で退学してしまいました。それを心配した母が本田先生の所に相談に行きなさいということで、先生を伺ったのが東洋大学とつながるきっかけといえます。

その時の時勢(大学は出ていた方がよい)といった訳ではないですが、大学に入りなおすことになったのですが、東洋大学は既に一般課程の入試は終わっていたので通信教育課程に入れていただきました。それとほぼ同時に、親の紹介で信用金庫に入社しましたが、勉強を後回しにして遊んでばかりいたこともあって、卒業には6年ほどかかってしまいました。

それでも、本田先生は「よく卒業したね。」と言葉をかけてくださり、上野学園中・高等部*3の書道の非常勤講師の職をご紹介くださいました。その頃、既に学芸大学を卒業された優秀な方が講師をしていらっしゃいましたが、その方に席を譲っていただく形となりました。

それまでの流れを今思い起こしても、なかなか同じような経験を得る機会はないと思います。そういう意味でも、本田先生には今でも深く感謝しております。

*1 東京都北区の町名。武蔵野台地に位置し豊島区との区堺を成している。
*2 本田春玲(ほんだしゅんれい)氏。東洋大学元教授で書道家。その美しさと技術で評価が高く、著書に「これだけは知りたい百万人の書道史」など。東洋大学創立者の「井上圓了先生の書」にも関わった。教授時代は温かい人柄と深い知識を持つ人物として知られた。享年98歳。
*3 上野学園中・高等部 東京都台東区にある上野学園中学校・高等学校。敷地内に短期大学、大学がある。1904年に女学校として設立、2007年より男女共学制に移行。

非常勤講師の仕事~中高から短大、そして東洋大学へ

上野学園での非常勤講師が7年目となった頃、学長から同学園の短大の方へ行くように言われました。お話をいただいた際、それまでの課外活動でなく授業を持たせて欲しいとお願いしたところ、非常勤講師として授業を持たせていただくことになりました。

短大で3年ほど講師を務めた頃のこと、本田先生からお電話をいただきました。伺ってみると、東洋大学の非常勤講師のお話でした。お世話になった母校ということもあり、すぐにお受けすることを伝え、大学側へ推薦いただくことになったのです。これが東洋大学とのご縁を再度感じた瞬間でした。着任以来30年間楽しく仕事をさせていただきました。

大学での講師生活は、非常勤で週に2コマ程、月曜と水曜の二部の授業を担当しました。講師時代、多くの立派な先生方や、様々な学生たちと学ばせていただきました。色々と教えていただいたことを心から感謝しております。

書道教育のあり方に疑問と可能性

月日は流れ、定年近くになった時のことです。私の中にふと疑問が生まれ、書道教育のあり方はこれでいいのかと思い始めたのです。

理由は、大学では「国語」と「書道」の免許は別なのにも関わらず、小学校では「国語」の中の書写という一部の扱いとなることに疑問を持ったのです。「書は人格形成の役に立つ」という思いもあり、小学校からの授業は、国語と書写は別々にするべきではないだろうかと考えるようになったのでした。

2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」には紫式部が登場しています。日本の伝統文化の一つである書道、それも平安時代を中心とする「古筆」についても、もっと広く世間に知っていただききたい、具体的には小学校から高校まで、変体仮名を継続して勉強していただきたい。

そうすることにより、平安時代を中心とした「古筆」作品や『源氏物語』等を、多くの方が原文で読み書きすることが出来るのではないかと考えています。

足掛け8年の大学院、6万字超えの論文を執筆

六十歳近くになって、今度は大学院へ行きたいと切望するようになりました。そこで当時の学部長を通じて竹村学長へご相談し、在職中に大学院での学びが叶ったのです。

大学院在学中は、他大学の授業を拝聴する機会をいただいたり、学会へ入会したりと、様々な経験を重ねることができました。そういった経験を通じて、何としても論文は完成させなければと思い、様々な支障を乗り越え「仮名作品における間についての考察」約62,000字を纏めました。

現在も五つの学会に所属しており、産経国際書会*4の審査会員としても活動していますが、多くの方々のご協力があってのことです。この場を借りて感謝申し上げます。

足掛け8年の大学院在籍中に、主査の先生も変わりましたが、残念ながら卒業は叶わず。それでも、それはそれでよい経験となりました。 

*4 産経国際書会  昭和59年(1984)に発足した大手の書団体。海外からの参加者が多いことも特色で伝統文化の次代への継承に力を入れている。(団体HP sankei-shokai.jpより)

長年の研究成果を発表、夫に支えられ個展開催も

今年(2024年)9月21日には全国大学書道学会*5が福岡教育大学で開催され、長年取り組んできた拙論「小島切斎宮女御集*6の配列について」を七十歳にして初めて発表させていただきました。これも多くの方々のご協力の賜物と感謝しております。

また、銀座大黒屋のギャラリーで個展を開いた際には、京都教育大学名誉教授だった故杉村邦彦*7先生にギャラリートークをしていただくなど貴重な経験も得ました。大学院の学費や個展の開催費といった資金面で非常に困難を極めましたが、最終的には夫の支援で解決することができました。そしてそれを機に政治に関わることになりました。

*5全国大学書道学会 書道に関する研究の充実と発展につとめ、会員相互の親睦をはかることを目的に昭和34年(1959)年に設立された学会団体。
(団体HP all-shodo.jpより)
*6 小島切斎宮女御集(こじまぎれさいぐうにょごしゅう)は、四大手鑑に数えられる「藻塩草」の断簡のひとつ。断簡とは古筆を切断して鑑賞するために台紙に貼り付けたもので、手鑑はそれらをまとめたもの。国宝。京都国立博物館収蔵。
*7 杉村 邦彦(すぎむらくにひこ)。昭和十四(1939)年、大分市生まれ。京都教育大学・四国大学名誉教授、書論研究会会長、『書論』誌主幹を務めた。中国書の著作も多数。

写真)小島切斎宮女御集(こじまぎれさいぐうにょごしゅう)

AIの時代の書道、希望をもって盛り上げたい

昨年の全国大学書写書道教育学会*8において、「AIの時代における手書きの意義」というテーマで討論が行われました。シンポジウムでも、手書きの授業を受けた学生とそうでない学生の成績を比較すると、前者の方がよかったという結果が出ています。

2026年ユネスコ世界文化遺産に「日本の書道」が登録される*9ことに期待が膨らむだけでなく、手書きの良さ、そして古典文化の継承を意識しながら日本の書道を一層盛り上げていきたいと思っています。

最後に3月16日(土)から22日(土)まで,東京は有楽町にあります有楽町交通会館地下1階のギャラリーエメラルドルームにて「第10回夢楽和グループ展2025」を開催します。今回はこれまで以上に多数の出店者が集まります。お時間のある方はぜひお立ち寄りください。

*8 全国大学書写書道教育学会 書写および書道教育の研究の充実と発展をはかることを目的に昭和60年(1985)に設立された学会団体。(公式HP jacse.org  より)
*9 今年1月26日に無形文化遺産としての提案が決定され、審査に向けた準備が進められている。日本書道ユネスコ登録推進協議会「つなごう日本の書道文化 ユネスコの無形文化遺産に」(協会HP shodoisan.jp/)

 

昭和55年
文学部国文学科卒
染谷 慶子

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