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未来を創る責任。AI時代に求められる視点とは?

未来を創る責任 医療と福祉の現場から日本人の独立と生成AIの可能性を問う

原点は東洋大学で培った思考の力。根本的な問いに応えること

1987年(昭和62年)、私は東洋大学法学部を卒業しました。法律という社会の基盤を学ぶ中で、個人の権利と義務、社会制度と倫理の関係について深く考える習慣が自然と身につきました。この「制度を支える思想」と「制度を超えて問う視点」は、その後の私のすべてのキャリアの原点となっています。

現在、私は医療法人、学校法人、社会福祉法人、公益社団法人、株式会社など各法人の運営に携わっています。異なる制度や価値観を持つこれらの現場で、共通して求められているのは、「人間をどう支えるか」「地域社会をどう維持・発展させていくか」という根本的な問いです。そしてそれに答える責任は、我々大人の世代にあると感じています。

現代日本に必要な「真の独立」とは何か?

日本社会は今、急速な少子高齢化、地域格差、間違った財政制約、野放図な移民受け入れ、そしてAI革命という複合的な課題の中にあります。医療・福祉の現場でも、過去の延長ではもはや課題に対応できない状況に直面しています。

このような時代だからこそ、私は「日本人の真の独立とは何か」という問いに強くこだわっています。ここで言う独立とは、単に他人に頼らないということではありません。「自ら考え、選び、行動し、その結果に責任を持つ」という、精神的な自立、知的な自立を意味しています。もちろん戦後レジームからの脱却も同じことです。

医療や介護の現場でも、「してもらう側」から「共に選ぶ側」への転換が必要です。そして、私たち一人ひとりが社会を構成する主体として、自立した存在であるという自覚が、持続可能な社会を創る前提になると考えています。

生成AIの時代。複眼的思考で技術と倫理を結びつける

現在、私が取り組んでいることのひとつに、生成AIを活用した業務効率化や医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進があります。たとえば、カルテ要約やレセプト処理、ケアプラン作成の支援、記録業務の自動化といった人手を前提とする領域で、医療・介護現場への導入が加速しています。

AIは「道具」であると同時に、「問いを突きつける存在」でもあります。私たちはいま、「AIにできること」を問う段階から、「AIと何を共にするか」「AIに任せてはならないものは何か」を考える段階に入っています。

やがて訪れるとされるシンギュラリティ(技術的特異点)*1の時代に、人間はテクノロジーとどう共存するのか。そこに必要なのは、法律知識だけでも、技術知識だけでもありません。制度と思想、科学と倫理、効率と共感を結びつける「複眼的思考」が不可欠です。法学部で培った「規範を問う力」は、まさにその核心であり、今こそその学びが試されていると感じています。

*1 シンギュラリティ(技術的特異点):AIが人間よりも賢い知能を生み出す時点とされる。AI研究の第一人者レイ・カーツワイル氏は「2029年にAIが人間並の知能を備えるようになり、2045年には技術的特異点が訪れる」と提唱。
参考)https://aismiley.co.jp/ai_news/singularity-2045/

現場で活かす学び:実装力をどう磨くか?

生成AIの進展により、私たちの仕事や生活は、かつてないスピードで変化しています。もはや知識の有無や処理能力だけでは、社会の中で確かな価値を発揮することは難しい時代です。では何が必要なのか。それは、学んだ知識や経験を、自分の現場にどのように「実装」するかを考える力です。

私は東洋大学での法学の学びを通じて、「正しさは一つではない」「正義とは立場によって異なる」という多角的な思考を得ました。この視点こそが、制度と制度の狭間で揺れる医療や介護の現場、そして多様な価値観を持つ職員や利用者との関係構築において、極めて重要な武器となっています。

AIを使いこなすことが目的ではなく、AIを使ってどのように人を支えるか。その問いに向き合うとき、大学で培った「人間を見るまなざし」が、今なお私の羅針盤となっています。

地域包括ケア – AIと共に拓く温かい「人のつながり」目指す

私が力を入れているもうひとつの取り組みが、地域包括ケアの実現です。「住み慣れた街で、自分らしく最期まで生きる」 ― そのためには、医療・看護・介護・福祉・生活支援を統合する体制が必要です。

この仕組みのなかで、AIは情報連携の自動化、アセスメントの支援、リスク検知、そして何より「人間同士の時間を取り戻す」ための有力な手段になります。AIがやるべきことを任せ、人間は対話や共感に注力できる ― それが私の描く未来像です。

結びに代えて – 未来への架け橋となる、私たちの世代が果たすこと

私は、医療法人などを通じて、これからの社会の“基盤”を支える仕事に日々取り組んでいます。そのなかで常に心にあるのは「未来に恥じない今を生きているか」という問いです。

生成AIが進化し、技術が私たちの生活を大きく変えるなかで、なお求められるのは人間らしさであり、つながりであり、倫理です。東洋大学で学び、社会の一員として歩んできた今だからこそ、次の世代に橋をかける責任を自覚しています。

在学生を含む若い世代の皆さんには、ぜひ「学ぶ」という行為の本質を、単なる就職準備や資格取得にとどめず、「自分の未来に責任を持つこと」だと捉えてほしいと思います。学びとは、他者の痛みや社会の矛盾に気づく感受性を高め、自らの行動をより良いものへと導く準備でもあるのです。

社会は決して完璧ではなく、現場には多くの課題が山積しています。しかしだからこそ、学ぶ意味があり価値がある。私たち一人ひとりの問いと実践が、未来を少しずつ形作っていくのです。

この激動の時代を恐れずに、問いを持ち、誠実に、柔軟に、生き抜いてください。未来は、私たちの問いと選択にかかっています。もう一度言います。日本の未来は、私たちの問いと選択にかかっているのです。私たちが進むこれからの社会は「正解のある時代」ではありません。むしろ、「問いを持ち続ける力」が、もっとも必要とされる時代です。

東洋大学で学んだ皆さんには、ぜひ「問いから始める人生」を歩んでほしいと思います。制度を学び、現場を知り、技術と共に進む。答えを急ぐのではなく、問い続ける覚悟を持つこと。その姿勢が、医療や教育、地域、そして日本の未来を支えていくのだと、私は確信しています。

1987年(昭和62年)
法学部卒
古澤 久志
https://x.com/h_www

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