フランスに住めば哲学は身近なもの【後編】
前編の振り返り
高3の夏、「経営法学科なら法学も経営も学べるのでは?」と父の一言で、東洋大学の法学部経営法学科を受験。合格後、大学ではほとんど勉強もせず軟式野球部のマネージャー活動とバイトに明け暮れた4年間。当時の就職活動は企業に資料請求し、連絡が来れば面接にたどり着ける時代。
なかなか決まらず不安になる中、食品メーカーからの連絡があり、藁をつかむ思いで面接に行くと、当時野球チームのスポンサーをしていた企業だったことから、野球の話で盛り上がり、見事採用に!その後ご主人の仕事で中国に駐在した後、フランスに住むことに。
フランスには大小合わせて1000以上の美術館があり、そのほかに芸術的な建築物や高級ブランドが数多く存在。また美味しいレストランやパティスリーも多く、魅力的な都市として存在しています。ところが、生活環境の面でみていくと、日本の環境とは大きく異なることも多く、文化の違いに戸惑う姿を披露いただきました。後編では歴史を大切にするフランスの良さを前面に、フランスに居を構える際のアドバイスの視点で執筆いただきました。
助け合いと、古いものを慈しむ心の豊かさ
そんな緊張感のあるフランスですが、人のやさしさや古いものを大切にする心の豊かさは特筆すべき点ですので、いくつかエピソードをご紹介します。
(1)歴史的な街に息づくさりげない優しさ
歴史的・文化的景観の保護のため建物の構造や外観を変更することが難しく、エレベーターやエスカレーターのない駅がほとんどです。スーツケースのような大きな荷物やベビーカーを持っていたり、車椅子で階段を上り下りしたり、大変なときには近くの人が「お手伝いしましょうか?」と、必ずと言っていいほど声をかけてくれます。一瞬「ここで引ったくられるかも?」と思うのですが、お手伝いしてもらいながらスリに合ったことはありません。
道に迷っていても気軽に声をかけてくれますし、目が合えば「こんにちは」と挨拶を交わします。横断歩道でも車は止まってくれます。スーパーのレジなどは子供づれや買うものが少なかったりすると先に通してくれたり、レジでモタモタしてしまっても舌打ちされることは全くありません。
先日パン屋さんで、お財布も携帯も忘れたことに気づきました。レジで返品したいと話していると、後ろに並んでいた方が「今日は私の奢り」と私の分まで支払ってくれました。連絡先を教えてほしいと言ったのですが、「それなら赤十字に寄付してね!」と去っていきました。その後、赤十字に寄付をさせていただいたのですが、私もこの方のようにサラッとこんなことができるようになりたい!と思いました。

(2)「わらしべ長者」プロジェクトのような助け合い
フランスには、あちこちで寄付やサポ―トができる機会があります。赤十字の募金もそうですが、ユニークなところではお買い物ついでに寄付できるシステム。
スーパーやお店の入り口で、施設や支援団体の人たちが「欲しいものリスト」の紙を配ります。そこには食品や雑貨など寄付してほしいものが書かれています。買い物客は店内でリストに書かれた商品を購入し、お店を出るときに彼らに渡します。現金じゃなく商品で寄付できる方法です。
また市役所、学校や教会ではこうした支援団体に不用品での寄付もできます。不用品を受け取った団体がフリーマーケットなどで販売、その売上金が寄付金になるシステムです。ちょうど東洋大学の「わらしべ長者」プロジェクト*2のような感じです。これは流石にゴミだよね、と思うものでも売り買いする人を見かけます。あらためて自分の価値観にこだわらず、フランスに「できる範囲でサポートする」ことが日常に根付いていることを実感します。
*2 わらしべ長者プロジェクト:2025年に東洋大学の社会貢献センター・ボランティア支援室が実施した取り組み。
校友会HPの活動報告はこちら「わらしべ長者プロジェクト」にご協力ありがとうございました‼ https://www.alumni-toyo.jp/news/toyoalumni-113/

(3)古いは「宝物」。モノを慈しむ暮らし
学校の教科書は何年も使ったものが配られます。歴代の持ち主の名前が書かれた名札を見ながら、新しい持ち主がカバーをつけ名前をつけて一年大切に使います。教科書に残された歴代の持ち主の名前が、誰々のお兄ちゃんだ!お姉ちゃんだ!と話しながら大切に使うのです。そして、それは教科書に限らず、粗大ゴミも同じです。
回収日前日に家具などの粗大ごみを家の前の通りに出しておくと、使えそうなものは「あれよあれよ」という間になくなっていきます。ある日私が友人と歩いていたときのこと、通りに椅子が捨ててありました。彼女は持っていたカバンを私に預けると、その椅子を担いで帰宅。後日、布を貼り直しペンキを塗って、素敵な椅子に変身させていました。
捨ててあるものを拾う行為、つい他人の目が気になってしまいがちですが、お金がないから拾うのではなく、むしろ宝物を見つけた感覚で楽しんでいるのです。
フランスには「ブロカント」と呼ばれるガレージセールのようなものがあります。春から秋にかけて週末はいろんな場所で開催されて、中にはアンティークのお店もたくさんあります。私はフランスに来てから、古いものやアンティークの良さを知りました。

効率よりも大切なこと。マルシェと小切手と複雑な数字と
パリはとても小さい街です。東京でいうと山手線の内側を少し広げたくらい。小さいお店が多く、郊外に行かないと大きなスーパーがないといった状況もあるのですが、あえてマルシェ(市場)や商店街で買い物をする人がとても多いです。
店員さんをリスペクトし、そこでの会話を楽しんでいます。魚は「鮮魚店」肉は「生肉店」手芸用品は「手芸屋さん」専門のお店。最初の頃は一つのお店で全てが手に入らないなんて面倒だと思っていたのですが、スーパーでまとめて買うよりも、あえて時間をかけ吟味して選べることは、逆に贅沢で楽しいとさえ感じるようになりました。フランスは古き良きものと新しいものとの共存が上手な気がします。
フランスは未だに支払いに「小切手」が使われているのをご存じでしょうか。レジで金額を聞き小切手帳を探しペンを探し、金額を聞き直して記入した小切手を手渡しします。カードに比べると時間がかかります。皆さんイライラせず待ってくれますが、フランス語の数字はとても特殊!69までは普通なのですが70から計算です。
たとえば
・70は 60プラス10 (フランス語でsoixante-dix スワソント ディス)
・80は 4カケル20 (quatre-vingts キャトル ヴァン)
・91は 4カケル20プラス11 …悲鳴!
値段や電話番号を口頭で聞く時はものすごく集中しなければなりません。最近はネット支払いやスマートウォッチで支払う人も増えましたが、個人商店や学校などではまだ小切手が普通に使われています。改めて面白いなと思います。

他人と違うことは美徳。フランス革命の理念と教育
フランス人は「他人と違うことが好き」。フランスに来たばかりの頃、私は街中で人間ウォッチングしたり、ネットや雑誌で何が流行っているのかを調べたりしたのですが、街ゆく人はそれぞれ好きなものを身につけていて、「これ」というものが見当たりませんでした。最近買ったような服の人もいれば着古した感じの人も多く、また手作りやリメイク品も。
高級ブランドの誕生地でも、想像していたようなブランド品を身に着ける人はほとんど見かけません。普段は本当に質素倹約で、シンプルな服に小物を合わせるのがとても上手です。私も日々フランス人ファッションを勉強中。そんなある日、洋服を試着した時に店員さんに「あなたにそれは合わないわ!」と言われたことがあります。その率直さと、代わりに似合うものを提案できる姿勢は素敵だな!と思いました。
フランスでは「考えや意見を持っていること」がとても評価されます。それが正解か否かに関係なく、言うことが重要視されます。 日本では意見を言うこと、まして反対意見を言うことはとても勇気がいることですが、この意見のぶつけ合いがとにかく大好きなフランス人。初めて遭遇した時はケンカ?と心配になるほどでした。
当人たちはお互い白熱して意見をぶつけ合っているだけ。理解し合うためでもなく、自分の意見、考えを述べているだけ。ですから、これが原因で仲が悪くなるということはほとんどありません。「あなたはどう思う?」っと聞かれるので人と会うことが億劫に感じたこともありましたが、今ではわからなければ「わからない、知らない」「私はこうだった」とにかく考えていること、意見をいうようにしています。
良い悪いというのではなく日本は周りに合わせて協調できることが美徳とされているのに対し、フランスは周りとは違う意見があることが美徳とされる文化があるのは教育の違いからくるものだと知った時にとてもスッキリしました。
今だから響き繋がる、創立者・井上円了先生の志
そんな違いはどこから来るのか?教育理念の違いを紐解いてみたいと思います。フランスの正式国名はフランス共和国。国の最高の権力(主権)は国民にある、国民一人ひとりが社会に責任を持つという考えが強い国なので、フランスでは小さい時から「考える力」を学びます。日本の教育目的は「社会適応、基礎学力、勤勉さ」ですが、フランスは「批判的思考、知的自立、理性」です。そして日本の教師のあり方は「指導者、模範」に対してフランスは「議論の相手、導き手」となります。
その背景にフランス革命の理念である(自由、平等、友愛)があり、教育の最終目的は自由に考え、自分の意見を理性的に表現できる市民を育てるため。高校の卒業試験には文理に関係なく「哲学」が必須科目。政治は政治家だけでなく国民みんなで考える、という教育です。「何のために学ぶのか」。 大学の頃には思いもよりませんでしたが、「哲学」という教科が東洋大学の理念と結びついていて、フランスと東洋大学が私の中では今、繋がっています。
「日本の近代化が進んでゆくこれからの時代において、人々が哲学に基づく新たなものの見方、考え方を身につけることが社会の発展に不可欠」という東洋大学創立者、井上円了先生の志が今になって私の心に響きます。
哲学科ではなかったのが残念ですが、フランスに来て逆に哲学を学びたいと思うようになりました。 オンラインで哲学が学べる日が来ることを切に願いながら締め括らせていただきます。ありがとうございました。

1998年
法学部経営方学科卒業
ミリカ 真美
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